Health Science Research Vol:16 No.1 Original Article
原著論文
Monte Carlo法で取得したビームデータを用いたLong SAD法の全身照射の処方MU値及び補償物質厚の推定
寺島 真悟 中野 雄基 駒井 史雄 木村 直希
誌名:保健科学研究 第16巻1号 pp1-10
公開日:2025/9/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:TBI,Monte Carlo,Long SAD法,放射線治療
本文:PDF(0.6MB)
要旨
Long SAD法における全身照射(Total body irradiation; TBI)は,一般に放射線治療計画装置では対応していない。そのため, ファントムを用いて実際に線量計測を行い処方MU値及び体厚を補正する補償物質の厚さを推定する必要がある。本研究では,Monte Carlo法を用いた線量計算でLong SAD法におけるファントム測定のビームデータを取得し,処方MU値及び補償物質厚の推定が可能かを検討した。また,軸外距離における補償物質(アクリル)の実効線減弱係数の算出及びファントムサイズが吸収線量に及ぼす影響を評価した。本研究により,処方MU値を実際の±1%の精度で推定し,また推定した補償物質厚を用いた線量が施設基準値内である±3%に収まった。施設における推定値の初期値として本法が利用され,TBIの準備時間の短縮及びそれによる治療スタッフの負担軽減に貢献できた。
看護学生の精神保健に関する相談施設および相談先に対するイメージと不安感の違い
荒井僚太,工藤幸清,阿保淳,千田真由香,坂本颯,野呂朝夢祐,小山内暢,對馬惠,小宮睦弘,葛西慶彦,成田将崇
誌名:保健科学研究 第16巻1号 pp11-16
公開日:2025/9/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:精神科,心療内科,メンタルヘルスクリニック,カウンセリング,不安感
本文:PDF(0.8MB)
要旨
目的:看護学生の精神科,心療内科,メンタルヘルスクリニック,対面カウンセリング,非対面カウンセリングへのイメージと受診・相談する際の不安感の違いを明らかにすることである。方法:看護大学生1~4年生330名を対象に,無記名自記式質問紙調査を実施した。調査期間は,2024年7~8月であった。調査項目は基本属性,上記5つの相談施設・相談先へのイメージおよび受診・相談する際の不安感とした。結果:精神科は他と比較し,「難しい」,「不安な」等のイメージを持たれていた。精神科では,「自身の気持ちや症状について話すことができる」にそう思うとした者が有意に少なく,「利用したことで周囲からどのように思われるか不安に思う」にそう思うとした者が有意に多かった(p<.05)。考察:精神科を受診する際の不安として,周囲の目,気持ちや症状の話しづらさがあり,これらが精神科の否定的なイメージを形成する要因と推察された。
肺野の逐次近似応用再構成法と深層学習を用いたCT画像再構成法の比較:ファントム実験
柴垣 龍之介 工藤 幸清 小山内 暢 對馬 惠 南島 佑亮 佐々木 稜 成田 知将 森田 竹史
誌名:保健科学研究 第16巻1号 pp17-26
公開日:2025/9/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:CT,逐次近似応用再構成法,深層学習
本文:PDF(0.8MB)
要旨
近年,深層学習を用いた画像再構成法がcomputed tomography(CT)装置に搭載されるようになり,CANON社製Aquilion ONEには,従来使用されてきた逐次近似応用再構成法のAdaptive Iterative Dose Reduction 3D(AIDR 3D,レベルL1-L4)に加え,深層学習を用いたAdvanced intelligent Clear-IQ Engine(AiCE,レベルL1-L3)が搭載された。そこで,本研究は肺野領域を想定したファントム実験によりAIDR 3DとAiCEの画像を比較し,AiCEの有用性を検討した。自作ラインファントムを撮影した各種再構成画像を利用し,信号欠損数とノイズ,コントラスト評価のcontrast-to-noise ratio(CNR),解像特性とノイズ特性のsignal-to-noise ratio(SNR)を測定した。その結果,AIDR 3D L1に比べAiCE L2では信号欠損数に違いはなく,ノイズが少なかった。CNRはAiCE L2,AiCE L3が約17%,63%の線量低減効果が示唆され,SNRでは高周波数帯(0.9 cycles/mm)においてAiCE L1,AiCE L2,AiCE L3が約23%,49%,80%の線量低減効果が示唆された。このことから,AIDR 3D L1と比較して,AiCE L2はノイズが少なく,信号欠損は同等で,かつ線量低減に寄与する可能性が示唆された。
報告
福島第一原子力発電所事故後におけるユズの放射性セシウム濃度とドレッシング作製による濃度変化
小山内 暢 清水 真由美 田中 和貴 工藤 幸清 細川 翔太 對馬 惠 堀内 輝子 木立 るり子
誌名:保健科学研究 第16巻1号 pp27-34
公開日:2025/9/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:食品中の放射性物質,ユズ,放射性セシウム,食品安全,リスクアナリシス
本文:PDF(0.8MB)
要旨
ユズは日本で古くから親しまれてきた柑橘類で,近年は輸出も盛んになっている。本研究では,食品中の放射性物質に関する現行の基準値が適用された2012年度から10年間のモニタリング検査結果を基に,放射性セシウム濃度を解析した。さらに,実測で部位別濃度を明らかにし,調理加工例として,ドレッシング作製による濃度変化も評価した。10年間の全検体のうち45.6%でセシウムが検出され,濃度の中央値は12 Bq/kg,95パーセンタイル値は49 Bq/kgと低濃度分布が特徴的で,経年に伴う濃度低下傾向がみられた。実測で全体の濃度が21.0 Bq/kgであるユズの部位別濃度は,種子,果皮,じょう嚢膜,果汁・砂じょうの順に高くそれぞれ32.0,24.8,14.2,13.2 Bq/kgであった。果汁・砂じょうで作製したドレッシングの果実全体に対する濃度比は0.27であった。濃度は喫食部で低く調理加工により大きく低下した。
その他(印象記)
日本放射線影響学会第67回大会へ参加した印象記
山中 天聖 門前 暁
誌名:保健科学研究 第16巻1号 pp35-39
公開日:2025/9/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:そのほか(印象記)
キーワード:日本放射線影響学会,癌放射線治療, 生物学的影響,放射線防護,基礎研究
本文:PDF(0.6MB)
要旨
2024年9月,北九州国際会議場で開催された日本放射線影響学会第67回大会に,筆者は大学院生として初参加・発表した。本大会は日本放射線事故・災害医学会との合同開催であり,シンポジウムやポスター発表など多様な形式で最先端の研究成果が紹介された。がん治療,放射線防護,災害対応に関する発表では活発な議論が展開され,筆者も自身の研究発表を通じて有意義な意見交換を経験した。また,著名な研究者や若手との交流を通じて多くを学び,放射線生物学への理解を一層深める貴重な機会となった。特に,自身の研究課題の社会的意義や今後の方向性について新たな視点を得られたことは大きな収穫であった。本大会を通じて得られた知見や出会いに感謝し,今後も継続的に学会に参加し,放射線生物学分野への貢献を目指したいと考える。