Health Science Research Vol:9 No.2 Original Article
原著論文
入退院時における心不全患者の心理的状態と関連する因子の検討
三橋佑平 亀川拓真 秋濱裕貴 澄川幸志 田中真 加藤拓彦
誌名:保健科学研究 第9巻2号 pp1-9
公開日:2019/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:作業療法,心臓リハビリテーション,心不全,心理状態,Quality of Life
本文:PDF(1.6MB)
要旨
心不全患者のネガティブな心理的状態の発生やQoLの低下を抑えたリハビリテーション介入内容を検討するため,入退院時の心理的状態とQoL,ADL能力を調査し,各時期の比較,および心理的状態やQoLとその他の項目とで単回帰分析を行った。入退院時の比較ではADL状態の改善,安静度の拡大,心不全重症度の改善,BNPの低下,不安の減少が見られた。また,入院時に関連が見られた項目は,不安とADL,気分と心不全重症度であり,不安の発生に高いADLが,ネガティブな気分に心不全の重症さが関連していた。退院時に関連が見られた項目は無かった。入院時にはADL状態の高い者ほど胸部症状として息切れを体感し,不安を感じていると考えられた。また心不全重症度がネガティブな気分を引き起こすことが示唆された。退院時に関連が見られた項目は無く,心不全重症度が改善し,労作による胸部症状が減少し不安が軽減したと考えられる。
湯たんぽの貼用方法の違いが生体と寝床内温度に与える影響
太田一輝 高間木静香 工藤ひろみ 安杖優子 佐藤真由美 工藤せい子
誌名:保健科学研究 第9巻2号 pp11-20
公開日:2019/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:湯たんぽ,貼用方法,温熱効果,寝床内温度
本文:PDF(0.7MB)
要旨
本研究の目的は,1時間前に80℃の湯たんぽで温めたベッドに臥床し下腿の間に貼用する場合(貼用群)と同様に温めたベッドに臥床後湯たんぽを除去した場合(除去群)の生体と寝床内温度の変化を明らかにすることである。対象者は男性21名であった。方法は同一対象者に対し貼用群,除去群,コントロール群の3種類の方法をランダムに実施した。生理的指標(表面温,深部温,寝床内温度など),主観的指標(温熱・快適感覚・POMS短縮版)の測定を行った。貼用群と除去群では足底表面温・深部温が上昇したことから,ほぼ同様の加温・保温効果があることが示唆された。温熱・快適感覚では,両群ともほぼ同様の効果があり,POMSでは,除去群がより有意に快適さを示した。貼用群は接触により低温熱傷を生じる可能性が考えられたが,除去群では,湯たんぽを除去するため低温熱傷の心配はない。寝床内温度では,両群とも,快適な寝床内温度を上回って保温効果があった。
カラスの糞における感染症原因菌の保有に関する研究
吉田千賀雄 工藤美里 吉岡翔 野坂大喜 藤岡美幸
誌名:保健科学研究 第9巻2号 pp21-26
公開日:2019/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:野鳥の糞,Campylobacter,Yersinia,酵母様真菌,Vibrio,下痢原性大腸菌
本文:PDF(0.9MB)
要旨
青森県弘前地区には野鳥が多数生息しており,糞害や家庭のごみ荒らしが問題となっている。本研究では2016年4月から2018年9月の期間に,青森県の弘前地区カラス糞便159検体および家庭由来の廃棄食材29検体を対象に,ヒト感染症原因菌とされるCampylobacter,Yersinia,Candidaなどの酵母様真菌類,Vibrio,および下痢原性大腸菌の保有状況を調査した。カラスの糞159検体からはC. jejuni 4検体,Y. enterocolitica 10検体,C. albicans 23検体,C. glabrata 12検体,大腸菌47検体が検出され,うち大腸菌2検体は下痢原性大腸菌関連遺伝子astAの保有を認めた。また廃棄食材29検体からはY. enterocolitica 1検体,C. glabrata 8検体が検出された。カラスの糞から種々の病原性細菌類が検出されたことに加え,カラスの糞と廃棄食材との間で共通の感染症原因菌が検出されたことから,両者の関係性について調査を続ける。
弘前市周辺の河川等の水系における汚染状況
工藤美里 吉岡翔 吉田千賀雄 藤岡美幸
誌名:保健科学研究 第9巻2号 pp27-33
公開日:2019/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:弘前市周辺河川,水系感染症,Escherichia属,astA遺伝子
本文:PDF(0.9MB)
要旨
病原微生物に汚染された水の摂取により起こる感染症を水系感染症といい,現在の日本では低頻度ながらも発生の報告がある。本研究では2018年6月から2018年8月にかけて弘前市周辺から採取された河川水20検体を対象として,水系感染症および食中毒の主要な原因菌であるEscherichia属,Campylobacter属,Vibrio属について調査した。調査の結果,18検体からE. coliが検出された。E. coli未検出の2検体の塩分濃度はいずれも高値を示し,高濃度域での発育抑制が示唆されたが,一方で高濃度でE. coli検出を認めた検体もあったことから,E. coliが発育可能な塩分濃度について詳細な調査が必要であると考えられた。また,E. coli検出時におけるHIブイヨンの前培養温度を37℃から40℃へ変更した結果,E. coli検出率が増加したことから,前培養温度は40℃がより適切であると考えられた。さらに,対象河川水3検体からastA遺伝子を持つE. coliが検出され,河川水を飲用することによる水系感染症発生の危険性が予想された。
ファントムの厚さ及び材質による後方散乱係数への影響
工藤真也 工藤幸清 小宮睦弘 小山内暢 對馬恵 廣田淳一 楢木聡 成田将崇 船戸陽平 須崎勝正 松谷秀哉 青木昌彦 細川洋一郎
誌名:保健科学研究 第9巻2号 pp35-40
公開日:2019/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:後方散乱係数,DRLs,診断用X線
本文:PDF(0.7MB)
要旨
医療放射線防護の指標である診断参考レベル (DRLs) は被ばく線量の最適化を目的に設定されており,入射表面線量で規定されている。しかし,臨床において入射表面線量の測定は困難であるため,入射線量に後方散乱係数 (BSF) をかけることで算出される。後方散乱線は照射条件や被写体に影響されるため,BSF は変化する。そこで,ファントム実験とシミュレーションにより被写体厚,管電圧,照射野,線量計の位置,被写体材質の違いによる BSF の変化を調べた。その結果,被写体厚 10 cm 以上では BSF が飽和し,管電圧,照射野に依存して BSF は増加した。また,線量計-ファントム間距離に依存し BSF は低下した。材質の違いによる比較では Acryl ファントムの BSF が最も高く,次いで軟部組織,Tough Water ファントムとなった。このことから過小評価を避けるためには, Acryl ファントムによる BSF の算出が適していると示唆された。特に Tough Water ファントムの使用は入射表面線量を過小評価する可能性が示唆された。
Interventional radiology時における医療従事者の水晶体被ばく推定を目的とした散乱X線分布図の有用性
小宮睦弘 工藤幸清 工藤真也 小山内暢 對馬恵 廣田淳一 佐藤幸夫 葛西慶彦 須崎勝正 松谷秀哉 青木昌彦 細川洋一郎
誌名:保健科学研究 第9巻2号 pp41-47
公開日:2019/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:IVR,線量分布,水晶体
本文:PDF(0.6MB)
要旨
2011 年に国際放射線防護委員会 (ICRP) が水晶体の等価線量限度を年間20 mSv ( 5 年平均) に引き下げたことで,水晶体被ばくへの関心が高まっている。散乱X線分布図は放射線を可視化でき,被ばく低減効果が期待できる。しかし,測定は高さ 100 cm で行うことが一般的であり,水晶体に対する正確な線量評価は困難である。そこで,本研究の目的は水晶体に適した散乱X線分布図を作成し,分布図から水晶体被ばくを評価することである。Interventional radiology (IVR) 室内で 1 cm 線量当量 (H*(10)) を実測し,3 mm 線量当量率 (H*(3)) に換算した線量分布を作成した。実測は 50 cm の格子上,高さ 100, 150 cm の点を測定した。モンテカルロシミュレーションにより散乱X線の実効エネルギーを算出し,線量換算係数比 (H*(3)/H*(10)) を求めることで H*(3) へ換算した。その結果,H*(3)/H*(10) は 0.943 であり,これを用いて水晶体に適した散乱X線分布図を作成することができた。また散乱X線分布図から医療従事者の H*(3) を評価した結果,年間20 mSv を超えることが示唆された。
報告
看護部における倫理研修会の評価-対人態度能力の結果を含む-
工藤せい子 川崎くみ子 花田久美子 五十嵐世津子 北宮千秋 佐藤真由美 工藤ひろみ 小林朱実 境美穂子 太田一輝
誌名:保健科学研究 第9巻2号 pp49-56
公開日:2019/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:看護者,倫理研修,対人態度能力,評価
本文:PDF(0.8MB)
要旨
目的は,倫理研修を評価することと看護者の「対人態度能力」を知ることと課題を抽出することである。対象は看護者で,2004年328名,2013年300名であった。方法は,研修の企画・運営の評価と「対人態度能力」を測定する「他者意識」と「対人的志向性」尺度を用いた質問紙調査であった。解析はSPSSを使用し,有意水準は5%未満とした。研修の企画・運営の評価は,2004年の反省点が2013年に改善された。両年とも「他者意識」は,3年未満の看護者がその他の就業年数より有意に高かった。両年の比較では、「他者意識」の下位尺度「内的他者,外的他者,空想的他者」と「対人的志向性」の下位尺度「対人的関心・反応性,人間関係志向性」が,2013年の得点が有意に高かった。倫理研修における評価は上がり,「対人態度能力」は2013年が高い結果となった。また,課題として,就業年数別に配慮した教育プログラムの工夫が必要である。
保健学系大学生におけるロジカルシンキングスキルの実態調査-医療安全視点からの論理的説明力の評価-
野坂大喜 中野学 藤岡美幸 高見秀樹
誌名:保健科学研究 第9巻2号 pp57-62
公開日:2019/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:ノンテクニカルスキル,ロジカルシンキング,言語技術,医療安全
本文:PDF(1.1MB)
要旨
医療インシデントの約50%がノンテクニカルスキルに起因して発生しており,本スキルの向上は大きな課題となっている。近年,医療系カリキュラムにおいて医療安全教育が必修化されたものの,保健学系学生を対象とするノンテクニカルスキル教育は行われておらず,ノンテクニカルスキルの実態についても明らかとされていない。そこで本研究ではノンテクニカルスキルの一つであるロジカルシンキングスキルの実態調査を行った。その結果,保健学系学生のロジカルシンキングスキルは専攻職種を問わず低スコアを示し,論理的説明スキルに乏しいことが判明した。このことから,医療安全の観点上,臨地実習前にノンテクニカルスキルを向上させる必要があると考えられ,ロジカルシンキングスキルや言語技術などによる保健学系学生向けノンテクニカルスキル教育方法の確立が望まれる。