保健科学研究 第10巻 2号 原著論文

総説

放射線治療に関わる癌幹細胞

細川洋一郎 嵯峨涼 長谷川和輝 大内健太郎 奥村一彦

誌名:保健科学研究 第10巻2号 pp1-10
公開日:2020/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:総論
キーワード:癌幹細胞,放射線治療,放射線抵抗性,転移, 上皮間葉転換
本文:PDF(0.6MB)

要旨
悪性腫瘍を構成する細胞は、等しく腫瘍形成能を有するものではなく、少数の癌幹細胞と呼ばれる細胞が存在し、自己複製能と分化能を保持しながら、腫瘍隗を構成する大多数の癌細胞を供給するという、癌幹細胞システムの概念が一般化しつつある。この癌幹細胞を解明することにより,従来の放射線治療で起こる、腫瘍の再発や転移および放射線治療抵抗性の獲得等、癌の生物学的特性に深く関連した諸問題を克服できる可能性があるため,癌幹細胞を同定してそれを標的とする研究が活発になっている。本稿では,癌幹細胞の研究の歴史、癌幹細胞の発生起源とその同定方法,癌幹細胞内のシグナル伝達などの癌幹細胞の性質と放射線に対する癌幹細胞の影響について紹介した後、今後の放射線治療における癌幹細胞研究の戦略について概説した。

原著論文

運動習慣および難聴の自覚と聴力との関連
-青森県2市での聴力検査による高齢者の難聴予防策の検討-

須藤美香 平岡恭一 成田智 小山内筆子

誌名:保健科学研究 第10巻2号 pp9-16
公開日:2020/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:高齢者,難聴,運動,難聴の自覚,難聴予防
本文:PDF(0.8MB)

要旨
本研究では,聴力と運動習慣との関連を試みに探ること,また高齢者の難聴の自覚に関する特徴を明らかにすることを目的とし,弘前市と八戸市で実施される健康まつり来訪者152名に対し,アンケートと聴力検査を実施した.対象者の年代別平均聴力閾値を分散分析により検討した結果,先行研究同様,年齢が上がるほど加齢性難聴の指標となる高音域の閾値が高くなり,また難聴の自覚が難しくなることが示された.特に80歳以上では8,000 Hzの閾値上昇の自覚に困難が認められ,認知機能や音の特徴の観点から考察した.聴力と運動習慣との関連では,60歳代以下において運動群は非運動群に比し右耳1,000~4,000 Hzの聴力が有意に良好であった.限られた結果ではあるが、欧米の先行研究を支持し,聴力維持に対する運動の効果が示唆された.


深層学習法(Deep learning)による末梢血白血球分類AIモデルの検討

小田未来 佐々木亜実 野坂大喜 中野学 藤岡美幸 高見秀樹

誌名:保健科学研究 第10巻2号 pp17-24
公開日:2020/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:人工知能,深層学習法,血液形態検査
本文:PDF(1.3MB)

要旨
深層学習法はニューラルネットワークを用いて多層的に解析することで,コンピューター自らがデータに含まれる潜在的な特徴をとらえ,正確で効率的な判断を実現する技術である。本研究では深層学習法を利用した血液形態解析用AIモデルについて検討した。典型的形態を示す成熟白血球細胞を対象として教師画像による転移学習とパラメータ設定を行い,得られたAIモデルについて評価画像による分類予測値計算と目視分類との比較を行った。その結果,1細胞群間での2分類は99.0%以上の精度を示した。1細胞群-複数細胞混合群間での2分類では82.6-100%の精度を示した。背景処理済み画像によるPre-training後,非背景処理教師画像での追加転移学習とFine-tuningを行い6分類した結果, 99%の精度を示し高精度な白血球分類モデルが得られた。本モデルは白血球分類スクリーニング技術として有用性が高く,幼弱細胞や異常細胞画像の追加学習によって病態の正確な検出に貢献すると示唆される。


畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いた末梢血白血球分類スクリーニング技術の検討

佐々木亜実 小田未来 野坂大喜 中野学 藤岡美幸 高見秀樹

誌名:保健科学研究 第10巻2号 pp25-33
公開日:2020/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:人工知能,畳み込みニューラルネットワーク,血液形態検査,白血球分類
本文:PDF(1.5MB)

要旨
医療用AIは, 熟練者の経験に基づいて診断された患者症例を教師データとして大量に学習することで,ユーザーの経験値に左右されず,かつEBMに即した診断を実現する次世代の医療技術である。本研究ではAIによる末梢血白血球分類スクリーニング技術の有用性を検討した。対象はMG染色を行った健常人末梢血塗抹標本57例とし, 典型的白血球形態画像を用いた転移学習とFine-tuningによって得たCNNモデルを用いて白血球画像分類精度を比較評価した。その結果,背景なし教師画像による教師学習では5分類で0.990,6分類において0.822のAccuracyを示した。一方,背景あり教師画像による学習では5分類で0.992,6分類において0.879のAccuracyを示した。CNNによる末梢血白血球分類スクリーニング技術はAccuracyが高く有用であると考えられるものの,その臨床応用化においてはカットオフ値など境界領域細胞の判定保留条件などを検討する必要がある。

報告

地方における保健医療技術職へ外国人就労者が増大した際の医療環境変化の考察~多民族国家スウェーデンを参考に~

門前暁 森野友貴 千葉満 Wojcik Andrzej

誌名:保健科学研究 第10巻2号 pp35-40
公開日:2020/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:労働力不足,スウェーデン, 保健医療技術職
本文:PDF(0.7MB)


要旨
現在国内では、労働力を国外から確保することで労働力不足を補い経済成長と様々なサービスを持続させる対策に関心が高まっている。一方で、異なる文化や慣習をもつ外国籍人口の急激な増加は様々な問題が発生するという懸念がなされており、保健医療分野においても例外ではない。そこで本研究では、多民族国家へとなり、更に現在でも経済成長及び人口増加をし続ける欧州スウェーデン王国において、特に保健医療分野での外国人が資格取得するためのシステムに焦点をあて現地調査を行い、我が国の外国人労働者の増大によって及ぼす保健医療技術職への変化、とりわけ地方に対して考察した。スウェーデン王国における医療系資格は、移住者の母国との資格とを互換させる制度をもち、移住者の母国の国籍を維持しながら活躍できる環境を有していた。また、当国の資格互換認定にあたり母国語を重要視しており、そのサポート体制も有する。本調査結果から、保健医療技術職に対する働きやすさは、現況の日本国内よりフレキシブルであることが明らかとなった。また、今後日本国内での保健医療技術職分野へ労働力の補充が必要となった際、地方にみられる日本特有の文化・慣習を保護しながら、長期的な視点で日本の地方、都市部それぞれの特徴を把握した就労体制を検証し続ける必要性が示唆された。


中学生陸上選手の栄養教育実施前後の食事摂取状況と体組成の変化

宮地博子 尾田敦 石川大瑛

誌名:保健科学研究 第10巻2号 pp41-49
公開日:2020/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:スポーツ,栄養,中学生,陸上競技
本文:PDF(0.8MB)

要旨
中学生陸上競技選手48名を対象とした食事摂取状況調査及び身体組成計測結果から,栄養管理上の問題点を明確にし,効果的な栄養サポートを実施するための基礎資料を得ることを目的とした.方法は,競技シーズンオフ時(第1期調査)とシーズンイン時(第2期調査)に自記式の食事摂取状況調査及び体組成計測を実施し調査期間で比較した.また第1期調査時のみ栄養教育も行った.その結果,意識して摂取している栄養では,男子選手のタンパク質が有意に増加,カルシウムが有意に減少した(p<0.05).体組成では短距離選手では男子選手と女子選手のどちらも身長,タンパク質量,筋肉量,骨格筋量,除脂肪量が有意に増加,肥満度は有意に減少した(p<0.05).短期間での体組成結果の向上など,基礎資料としてのデータを収集できた.今後は選手や保護者に対する調査と栄養教育の検討が必要であり,選手に対する栄養学的なアプローチについても,継続的な研究が必要である.


インターネット上の健康情報検索の実態とeヘルスリテラシーとの関連

宮地博子 尾田敦 石川大瑛

押切風花 會津桂子 西沢義子 高瀬園子

誌名:保健科学研究 第10巻2号 pp51-57
公開日:2020/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:eヘルスリテラシー,健康情報検索,大学生
本文:PDF(0.7MB)


要旨
本研究は,看護学生と非医療系学生17名を対象にインターネット上の情報検索の実態を調査し,eヘルスリテラシーとの関連を明らかにすることを目的とした。個人面接において,インターネットでの情報検索からサイトを選択してもらい,研究者が独自に作成した評価項目に該当したサイトの出現頻度を分析した。また,情報検索時の意識を尋ね,インタビューの内容をテキストマイニングの手法を用いてカテゴリー分類し各カテゴリーの出現頻度を分析した。eヘルスリテラシー評価は光武らが作成したeHealth Literacy Scale (eHEALS)日本語版を使用した。属性間でeHEALS得点に差はなかったが,サイトの選択行動には違いがあった。適切な情報検索の実践とeHEALS得点の高さは必ずしも対応しないことが示唆された。情報検索の傾向から,eヘルスリテラシーの教育内容考案の基礎的資料を得た。