保健科学研究 第11巻 1号 原著論文

原著論文

Escherichia albertiiにおける培養温度の検討

藤岡美幸 吉岡翔 野坂大喜

誌名:保健科学研究 第11巻1号 pp1-5
公開日:2020/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:Escherichia albertii,食中毒原因菌,誤同定,培養温度
本文:PDF(0.7MB)

要旨
新興病原体であるEscherichia albertiiは1998年にバングラデシュの下痢症患者から分離され,現在わが国でも食中毒の原因菌として知られている。E. albertiiの生化学的性状はE. coliに類似しており,臨床検査機関では誤同定されている可能性がある。そこで本研究ではE. albertiiをはじめ,E. coliKlebsiella pneumoniaeCitrobacter freundii の4種類の腸内細菌の混合液を作製し,使用培地や培養温度別にE. albertiiの検出を検討した。その結果,E. coliの選択培地であるECブロス44.5℃で選択培養したEMB寒天培地上ではE. albertiiを検出できなかったが,37~42℃ではE. albertii濃度が高い混合菌液での検出を認めた。一方でBTB寒天培地での発育はいずれの条件でもE. albertiiの検出は可能であったが,BTB寒天培地の通常の培養温度である37℃が最も有効であった。E. coli検出には高温下での選択培養が行われるが,他菌種のみならず一部のE. coliの発育も抑制することから,E. albertiiの分離には37~42℃での選択増菌後にBTB寒天培地等を用い,E. albertiiの特徴である乳糖非分解集落を標的にすることが有効である。


各種液体培養法における下痢原性大腸菌関連遺伝子の検出状況

藤岡美幸 林稜太 月足正辰 吉岡翔 松下紬 阿部翼 野坂大喜

誌名:保健科学研究 第11巻1号 pp7-11
公開日:2020/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:下痢原性大腸菌,遺伝子検索,液体培養,培養温度
本文:PDF(0.5MB)

要旨
ヒトや動物の腸管に常在する大腸菌は通常病原性はないとされるが,特にヒトに下痢症を引き起こす大腸菌は下痢原性大腸菌(DEC)と呼ばれる.DECはその病原機序から5種類に大別され,各病原因子の遺伝子も明らかである.本研究では糞便系大腸菌を選択的に培養する液体培地を用いて,温度等の培養条件別にDEC関連遺伝子の検出状況を調査した。対象とした全218検体からeae 1株,aggR 2株,astA 20株,aggRastA 1株が検出された。通常のECブロスの培養温度44.5℃ではいずれの遺伝子も検出状況が悪く,ECブロスおよびHIブイヨンいずれも40℃培養での検出が良好であった。本研究により,糞便検体を平板培地に塗抹・培養することなく,液体培地を用いることでDEC関連遺伝子の迅速検出が可能となり,また培養温度を40℃にすることで,より多くのDEC関連遺伝子の検出が可能となった。

報告

認知機能が低下した高齢者の主観的評価のアウトカムに影響する要因の検討

須藤那月 大津美香

誌名:保健科学研究 第11巻1号 pp13-20
公開日:2020/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:認知症,主観的評価,アウトカム,影響要因
本文:PDF(0.7MB)

要旨
本研究では認知機能が低下した高齢者の主観的評価のアウトカムに影響する要因を明らかにすることを目的とした。看護学生がHDS-Rの得点が20点以下の認知機能が低下した高齢者4名と約20分間生活歴に関する会話をし,その前後にSF-8(24時間版)を実施した。対照群として相互に馴染みのある一般高齢者5名にグループで生活歴に関する会話をしてもらい,その前後にSF-8(24時間版)を実施した。認知機能が低下した高齢者と会話した看護学生4名にグループインタビューを行い,主観的評価のアウトカムに影響があると認識した要因について聴取した。認知機能が低下した高齢者と一般高齢者の主観的評価のアウトカムの比較では,会話の前後でSF-8の回答が一致したのは一般高齢者1名のみであった。認知機能が低下した高齢者のSF-8の回答が会話の前後で異なっていた場合,身体的要因,調査者の要因,認知症の中核症状,社会的要因,心理的要因が主観的評価のアウトカムに影響すると考えられた。