保健科学研究 第11巻 2号 原著論文

原著論文

各種培養法における大腸菌発育温度の検討

吉岡翔 工藤美里 吉田千賀雄 月足正辰 藤岡美幸

誌名:保健科学研究 第11巻2号 pp1-4
公開日:2021/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:大腸菌,ECブロス,培養温度,EMB寒天培地
本文:PDF(0.4MB)

要旨
大腸菌はヒト・動物の腸管常在菌であるとともに,ヒト感染症原因菌でもある。大腸菌を選択的に分離する検出法として,ECブロスとEMB寒天培地を用いる方法が知られている。この方法ではECブロスは44.5℃の高温培養を行うため,発育できない大腸菌も考えられ,本研究ではECブロスを44.5℃,40℃,およびHIブイヨン前培養後40℃培養の3つの方法で培養し,培養温度・方法の違いによる大腸菌検出状況を調査した。その結果,大腸菌検出数はECブロスにおいて,44.5℃培養より40℃培養で多かった。このことから,44.5℃の高温培養では一部の大腸菌の発育が抑制され,この培養温度は大腸菌の選択に必ずしも適切ではないことが考えられた。今回,大腸菌検出数が増加することを想定し,HIブイヨンによる前培養を追加したが,ECブロス40℃培養と大腸菌の検出数に大きな差を認めなかった。この要因として,HIブイヨンでは大腸菌以外の細菌が優位に発育する可能性が考えられ,適切な分離培養法を慎重に選択する必要がある。EMB寒天培地では典型的大腸菌は分離可能であるが,乳糖非分解の非典型大腸菌は見逃される可能性があり,今後は培養温度とともに,より見逃しの少ない大腸菌分離法を検討していく必要がある。


新興病原体Escherichia albertiiにおける薬剤感受性調査

吉岡翔 伊藤政彦 磯崎将博 玉井清子 月足正辰 藤岡美幸

誌名:保健科学研究 第11巻2号 pp5-9
公開日:2021/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:Escherichia albertii, 薬剤感受性, ディスク拡散法, 薬剤耐性菌
本文:PDF(0.4MB)

要旨
Escherichia albertiiは,食中毒原因菌として注目されている。本菌の生化学的性状や遺伝子保有状況は明らかになりつつあるが,薬剤感受性状況は不明な点が多いため,本研究では下痢症患者由来便検体より分離されたE. albertii72株を対象に薬剤感受性状況を調査した。対象薬剤はエリスロマイシン(EM),ホスホマイシン(FOM),オフロキサシン(OFLX),シプロフロキサシン(CPFX),テトラサイクリン(TC)の5薬剤とし,ディスク拡散法により実施した。その結果,EMでは72株中耐性67株(93.1%),中間5株(6.9%)であった。FOMでは全72株(100%)が感性であり,E. albertiiにおいても有効であると考えられたが,細菌性腸炎の治療では抗菌薬の使用が限られているため,抗菌薬の適用は慎重に判断する必要がある。また,72株中OFLX,CPFX耐性2株(2.8%),TC耐性10株(13.9%)であった。近年,OFLX,CPFXなどのキノロン系薬剤やTCに耐性の細菌が増加傾向にあるため,本研究で検出された薬剤耐性E. albertiiにおける耐性遺伝子保有状況や耐性機序を明らかにする必要があると考えられた。また,環境由来E. albertiiにおいて,高い割合で耐性菌が分離されていることから,今後はヒト由来E. albertiiに加え環境由来E. albertiiを含めた薬剤感受性状況を明らかにする必要がある。


帯状疱疹後神経痛の緩和を目指した患者教育の有効性の検討

太田ゆきの 大津美香 工藤隆司 沓澤尚子

誌名:保健科学研究 第11巻2号 pp11-20
公開日:2021/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:帯状疱疹後神経痛,患者教育,不安,抑うつ,知識
本文:PDF(0.5MB)

要旨
本研究の目的は帯状疱疹後神経痛患者の知識不足や不安の関連から生じる疼痛の緩和を目指した患者教育を実施し,その効果を検討することであった。麻酔科外来に通院中の33名に10分程度の知識提供を個別に行った。介入前の痛みは不安が強いと痛みが強く(p<0.05),抑うつ傾向がみられた(p <0.01)。介入1ヵ月後のHospital Anxiety and Depression Scale日本語版尺度の不安及び抑うつの得点に有意な変化はみられなかったが,介入直後の知識得点は有意に上昇し,Numerical Rating Scale得点も有意に低下した(p<0.01)ことから,介入直後においては,患者教育の効果が認められたと考えられた。

報告

保健学系学生向け3D モデリング技術教育プログラムの検討
-臨床検査専攻学生における教育効果評価と学習意欲の調査-

野坂大喜 藤岡美幸 中野学 葛西宏介 山形和史

誌名:保健科学研究 第11巻2号 pp21-29
公開日:2021/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:3Dモデリング,3Dプリンタ,医用工学
本文:PDF(1.9MB)

要旨
医療における3Dプリンタの利用は医療資材製造から再生医療へと拡大しており,3D製造も医療系企業から病院内へと移行しつつあることから,保健学系学生を対象とする3Dデータ設計教育が今後必要となると考えられる。そこで本研究では保健系学生向け3Dモデリング技術基礎教育プログラムを開発し,その実践と評価を行った。臨床検査専攻学生42名を対象とした受講前後でのアンケート調査の結果,3Dモデリング技術に対する興味を示す学生割合は,40.5%から87.9%へと有意に上昇した。また臨床検査技師教育において3Dモデリング技術の習得が必要と回答した割合は81.8%であった。教育プログラムの検証においては,技術的要件基準を満たした割合は95.2%であった一方,プロセス要件基準を満たした割合は54.2%にとどまり,ユーザー視点から課題を捉え技術的課題解決を図る教育プログラムへの改良が必要であると考えられた。3Dモデリング技術は医療専門分野を問わず広く適用される可能性が高いことから,各専門領域に応じた医用3Dモデリング技術の体系的教育プログラムの確立が求められる。


介護保険施設の介護職員が認識する身体疾患を有する高齢者の日常生活管理

大津美香 小渡真央 黒坂玲菜 中山恵梨 古舘琉衣 成田秀貴 工藤麻理奈

誌名:保健科学研究 第11巻2号 pp31-38
公開日:2021/03/31
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:介護保険施設,介護職員,日常生活管理,多職種連携
本文:PDF(0.4MB)

要旨
本研究では,身体疾患を有する高齢者の日常生活管理における課題を検討するため,介護保険施設の介護職員が認識する身体疾患を有する高齢者の日常生活管理について明らかにした。全国の介護保険施設の介護職員1,000名に無記名による自記式質問紙調査を行い,227部(有効回答率22.7%)が分析対象となった。身体疾患の悪化予防のための日常生活管理に関する知識と援助の実施状況には中等度から高い正の相関がみられ(p<0.01),日常的に実施しているケアの知識と効果を実感することは,日常生活管理を行うための動機づけとなっていた可能性が示唆された。看護職員との職種間連携では,直接的にも間接的にも情報共有が行われていたが,高齢者の身体疾患の悪化予防のための日常生活管理に向けてチームとして連携するという認識をもつことが課題であると考えられた。