保健科学研究 第10巻 1号 原著論文

原著論文

自己目標設定が作業成果と感情に及ぼす影響 -大学生を対象とした折り紙課題-

加藤拓彦 小笠原牧 小山内啓 田中真 澄川幸志 小山内隆生

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp1-10
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:目標設定,作業成果,感情
本文:PDF(0.7MB)

要旨
本研究の目的は,単純反復課題を実施する際に自己目標設定を促すことが作業成果と感情に及ぼす影響を検討することである。大学生40名を対象とし,目標設定を促す群20名と促さない対照群20名に振り分け,単純反復課題として折り紙ブロック作成課題を3試行課し,作業成果および感情について分析した。その結果,作業成果については,両群ともに試行を重ねるごとに作成個数は増加し,群間比較では全試行とも対照群に比べ目標設定群の作成数が多かった。感情については,目標設定群が試行前に比べ各試行後のポジティブ感情が好転し,対照群では感情変化が少なかった。課題の目標を設定することは,作業成果を向上させ,感情を良好にすることに有効である


ボランティア学生の「聞き書き」が回復期病棟の認知機能の低下した高齢者の心身機能面に与える影響

工藤悠生 大津美香 工藤晶子 髙田郁子 田中文野 次木ちさと 三戸貴恵 奈良岡智子 兼平正和 高橋詩子

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp9-18
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:聞き書き,認知症,ボランティア,看護学生
本文:PDF(1.4MB)

要旨
本研究の目的はボランティア学生が「聞き書き」を行い,作成した冊子を活用することによって認知機能が低下した入院患者の心身機能面に与える影響を明らかにすることであった。聞き書きは週1回30分全2回,個別に行った。その後1週間後に,作成した聞き書き冊子を用いた回想を週1回30分全2回,個別に行った。「聞き書き」の実施と冊子の活用により,介入群では唾液中のαアミラーゼ活性値は有意に低下し (p<0.05),ストレスを軽減させ,心理機能・感情面において効果が認められたと考えられた。一方,DBDスケールやQOLの得点に変化はみられなかった。HDS-R得点は対照群のみ有意に上昇し (p<0.05),介入群よりも認知症の診断を受けて,抗認知症薬を服用していた者が多かったことが関連していると考えられた。認知機能の改善に向けては,長期的な介入が必要であると考えられた。


X線照射がラット肺胞線維芽細胞のエラスチンへ及ぼす影響

北山義尚 白戸佑貴 椎谷賢 嵯峨涼 寺島真悟 細川洋一郎 敦賀英知

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp19-24
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:放射線肺炎,肺胞,弾性線維
本文:PDF(0.6MB)

要旨
弾性線維は全身に広く分布する細胞外基質の1つである。これまで肺胞の弾性線維がX 線照射によって分解することは報告されていない。そこで,肺胞の線維芽細胞を用いた細胞培養系により,弾性線維にX 線を10Gy,20Gy,30Gy 照射した。その結果,X 線照射後12 時間では弾性線維の分解は観察されなかったが,24 時間後では有意な分解傾向が観察された。本研究により肺胞の弾性線維がX 線により分解することが示唆された。


食品および手指を介した細菌汚染に関する調査

藤岡美幸 中村愛 大内康平 野坂大喜

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp25-29
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:食中毒,食品汚染,細菌移行,流水水洗
本文:PDF(0.7MB)

要旨
原因施設別の食中毒発生は飲食店に次いで家庭が多いとされる。本研究では家庭での調理時における食中毒発生経路を探るため,食品および手指を介した細菌汚染に関して調査した。協力家庭7世帯のべ20検体を対象に調理使用前後のまな板の生菌数算定および大腸菌や黄色ブドウ球菌の検出を試みた。さらに手指を介した細菌汚染を調査するため,キュウリを用いた大腸菌移行に関して検討した。その結果,供試した20検体の使用前まな板の生菌数は0~1.4×103 CFU/mL,使用後は0~2.5×105 CFU/mLであり,2検体から大腸菌が検出され、うち1検体から下痢原性大腸菌関連遺伝子eaeAが検出された。また手指を介した大腸菌の移行は無洗40.9%,流水水洗,洗剤水洗はいずれも0%であった。使用後まな板の生菌数は使用食材の汚染を反映することから,まな板や手指のこまめな洗浄が望まれる。


精神科病院長期入院患者の身体活動量および体組成に関連する因子の検討

石田沙織 加藤拓彦 田中真 澄川幸志

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp31-38
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:精神科,長期入院患者,身体活動量,体組成
本文:PDF(0.6MB) FREE

要旨
本研究の目的は,精神科病院長期入院患者の身体活動量および体組成状況の把握と,それに関連する因子を検討することである.対象は,本研究の説明への同意を得た精神科病院長期入院患者19名とした.評価項目は,基本情報,身体活動量,体組成,社会生活能力,Quality of Life(QOL)とした.これらの評価結果から,身体活動量は対象者の42.2%が目標値を下回っており,Body Mass Index(BMI)は対象者の21.1%が,腹囲,体脂肪率,骨格筋率は対象者の70%前後が正常範囲内外であった.相関関係については,身体活動量の多さは身体的・精神的QOLの良好さと正の相関を示し,体組成異常は高年齢,入院期間の長期化,高血圧や腰痛症と関連していた.本研究の結果より,対象者に対する身体活動量を増やすことの重要性が示唆された.


凍結環境がCampylobacter生存に与える影響に関する調査

藤岡美幸 木村俊太 野坂大喜

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp39-42
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:Campylobacter,凍結期間,再凍結,食中毒
本文:PDF(0.5MB)

要旨
近年Campylobacterは食中毒原因菌の上位に位置し,各分野で対応に取り組んでいるが,事件数は減少していない現状がある。原因食材としてトリ肉が知られており,冷凍状態で流通する外国産の汚染が少ないことや冷凍による菌数減少の報告もあることから,本研究では凍結環境がCampylobacterに与える影響について調査した。C.jejuniおよびC.coli各10株を対象に検討した結果,いずれも1回の凍結操作で生菌数が激減した。連続冷凍期間は最大で21日間生菌数が認められたが,凍結と解凍を繰り返した場合,2~3回で対象としたすべてのCampylobacterが死滅した。以上より,Campylobacterは凍結によりダメージを受けやすく,保有菌数を減少させることが期待できるため,特に国産トリ肉では流通過程などで一度凍結することが食中毒の予防に有効であると考えられた。

報告

眼部への温罨法が生理的指標と快適感覚・気分に及ぼす影響

太田一輝 内城聡子 山田早織 工藤ひろみ 佐藤真由美 工藤せい子

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp43-50
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:眼部温罨法,生理的影響,快適感覚,POMS
本文:PDF(0.6MB)

要旨
本研究の目的は,眼部を温罨法した時の生理的指標と快適感覚・気分に及ぼす影響を検証することである。対象者は男性12名,女性12名であった。方法は,同一対象者の眼部に,70℃のお湯で10分間温めた専用ホットパックをあてた群,温めない専用ホットパックをあてた群,なにもしないコントロール群の3種類の方法をランダムに実施した。生理的指標は,側頭部の皮膚表面温・皮膚深部温・皮膚血流量と脈拍で,前・中・後に測定した。対象者には,介入前後に快適感覚とPOMSに回答してもらった。その結果,温めた専用ホットパックをあてた群は,側頭部の皮膚表面温・皮膚深部温・皮膚血流量が有意に上昇し,眼部への温罨法の加温効果が示された。また,温めた専用ホットパックをあてた群では,快適感覚も有意に増し,加えて,POMSもT-A(緊張・不安),F(疲労),C(混乱)が有意に低下し,緊張・不安,疲労,混乱の緩和にも有効であった。


小児がん患児のきょうだいへの母親のかかわり
―グループインタビューを用いた母親への介入―

橋本美亜 藤田あけみ

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp51-58
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:小児がん,きょうだい,母親
本文:PDF(0.6MB)

要旨
目的:小児がん患児の母親の思いを共有する場の提供や共有する場における看護介入が,有効な看護支援となり得るかを検証することである。方法:小児がんのために長期入院中の患児の母親のうち,患児以外のきょうだいがいる母親5人に,研究者がファシリテーターとして介入するグループインタビューを行い,1ヵ月後に個別インタビューを実施した。得られたデータを質的帰納的に分析した。結果:グループインタビューによって得られた母親のきょうだいへのかかわりとして【家庭環境の調整】【母親と父親の役割の調整】【家族以外にきょうだいのことを依頼する】【きょうだいの状況の確認】【きょうだいとの時間の確保】【きょうだいに我慢をさせ充分かかわれていない】の6カテゴリーが生成された。母親がグループインタビューを経て今後実施したいこととして,「父親と交代」「1日1回母親から連絡をする」「周りの人に伝えて理解してもらう」の3つがあげられた。これらを実施したことのきょうだいの反応としては,きょうだいの気持ちの表出や,両親の気分転換など,家族の良い反応が得られた。結論:小児がん患児の長期入院により,きょうだいと母子分離状態にある母親が思いを共有できる場を設け,看護師がファシリテーターとして介入することは,母親やきょうだいへの看護支援として有用であることが示唆された。


高齢者の健康管理や介護に焦点を当てた「家庭看護」の授業評価

大津美香 多喜代健吾 北宮千秋

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp39-42
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:Campylobacter,凍結期間,再凍結,食中毒
本文:PDF(0.5MB)

要旨

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp59-67
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:家庭看護,高齢者,長期療養者の介護,認知症,授業評価,学び
本文:PDF(0.8MB) FREE


要旨
(目的)本研究の目的は高齢者の健康管理や介護に焦点を当てた「家庭看護」の授業を計画及び実施し,授業の評価と今後の課題を明らかにすることであった。

(方法)授業の理解度と有用性を5段階評価とし,Spearmanの相関係数を算出した。自由記載は内容分析を行った。

(結果)各回の授業内容は概ね「4まあ理解できた」「5とても理解できた」であった。全ての授業の理解度と有用性の中央値には中等度から高い正の相関がみられた。高齢者の看護への興味関心の程度は中間値であり高いものではなかった。VTR学習では,認知症の当事者のつらさを理解し,【対象者の抱える思いを理解し,受け入れること】を学んでいた。

(考察)授業内容・方法は妥当であったと考えられた。また,VTRを用いた当事者参加型の授業は,生活者としての対象者を理解するために有用な教育方法であると考えられた。授業を通して高齢者看護に対する興味を引き出すことが今後の課題である。


認知機能の低下した患者に「聞き書き」を実施した
ボランティア学生における効果と今後の課題

大津美香 工藤悠生

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp69-75
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:聞き書き,認知症,ボランティア,看護学生
本文:PDF(0.8MB)

要旨
本研究の目的は,認知機能の低下した患者に「聞き書き」を実施したボランティア学生における効果と今後の課題を明らかにすることであった。インタビューガイドを用いた半構成的面接法にて看護学生4名にフォーカス・グループ・インタビューを実施した。データは質的帰納的に分析した。繰り返しかかわることで,学生は【回数を重ねることで(患者の)認知機能が改善した】と実感していた。「聞き書き」の評価としては,【聞き書きの効果を実感できた】のカテゴリーが得られた。「聞き書き」を行うことでボランティア学生は認知症に対して明るいイメージへと変化した。また,「聞き書き」は学生自身も楽しめるものであり,患者のみならず双方にとってプラスの感情をもたらすものであった。急変が起こりにくい患者の選定や急変時対応,交通費・送迎,時間確保等に関しては課題が残るが,今後,多忙な病院病棟の現場においても,ボランティアの活用が期待できる。


「聞き書き」を受けた高齢者による臨地実習の主観的評価

大津美香 黒坂菜美 菅原育美 須藤那月 北嶋結 米内山千賀子 山田基矢 井上信子 新保尚子 木立るり子

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp77-86
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:聞き書き,当事者,主観的評価,看護学生,実習
本文:PDF(1.2MB)

要旨
本研究の目的は,「聞き書き」を受けた高齢者が主観的に実習の評価を行い,その評価結果から今後の臨地実習の質改善に向けての示唆を得ることであった。高齢者16名を実習時期によって4つのグループに分け,グループインタビューを行った。発言内容はテキスト化し逐語録を作成し,カテゴリーに分類した。「聞き書き」の実施では学生から【積極的に話してほしかった】【事前に質問内容を教えてほしい】,作成した冊子では【読みやすく冊子を作成してほしい】【内容が不十分であった】【冊子の内容を事前に確認させてほしい】と要望があり,改善が必要な点もあった。しかし,【話しやすく,楽しかった】【様々話し良い機会になった】【読んだり見せたりして繰り返し活用している】【大事にしている】等,実習対象の当事者である高齢者から一定の評価を得ることができた。また,認知症予防や老年期の発達課題を達成するためにも有意義なものと考えられた。


電離放射線の細胞影響に関する短期研修CELOD 2019印象記

佐藤嘉晃 西田晃規

誌名:保健科学研究 第10巻1号 pp87-91
公開日:2019/09/30
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:CELOD2019,電離放射線,放射線生物学
本文:PDF(0.7MB)

要旨
2019年4月29日から5月10日にかけてスウェーデン王国のストックホルム大学にて開催されたCELOD2019 courseに参加した。本研修は電離放射線の細胞影響に関する短期研修であり,放射線生物影響を理解することを目的に,EU圏の大学院生及び35歳以下の若手研究者を対象に行われた。本研修は放射線生物影響をテーマに講義及び実習から構成されていた。本稿では,本研修で行われた講義,実習,研修内イベントの内容を簡単に紹介する。