保健科学研究 第14巻 1号 原著論文

原著論文

医療系専門職の特徴に合わせた方言教育のあり方―作業療法士,言語聴覚士,救急救命士養成課程の学生を対象とした方言に関する自由記述回答の分析―

須藤美香,石沢幸恵,工藤千賀子,小玉有子,千葉さおり,釜萢一正,鳴海圭佑,福士尚葵

誌名:保健科学研究 第14巻1号 pp1-11
公開日:2023/12/14
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:医療系専門職,方言教育,津軽方言
本文:PDF(0.6MB)

要旨

方言教育の手がかりを得るため,青森県津軽地域で生活する作業療法士,言語聴覚士,救急救命士養成課程の学生を対象に,各専門職が知っておいた方がいい方言と,専門職の方言使用に対する考えを自由記述形式で調査した。分析の結果,知っておいた方がいい方言は3 つの養成課程で基本的に共通しており,職種によって若干の違いが認められた。専門職の方言使用に対する考えは,作業療法士と言語聴覚士養成課程では類似しており,専門職の方言使用に肯定的で,対象者との関係成立を重視する傾向がみられた。一方,救急救命士養成課程の回答には,相手が理解できる言葉を尊重する傾向がみられた。このような養成課程による回答の違いには,学生の出身地が影響したと考えられるが,職種の違いによる解釈も可能であった。加えて,幾つかの回答には方言全般または津軽方言に対する誤解が含まれていた。職種の特徴を考慮した方言教育の内容について検討を行った。


IVR 室内における線量分布図及びジオメトリ表示のシステム化

荒井僚太,工藤幸清,阿保淳,千田真由香,坂本颯,野呂朝夢祐,小山内暢,對馬惠,小宮睦弘,葛西慶彦,成田将崇

誌名:保健科学研究 第14巻1号 pp13-20
公開日:2023/12/14
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:IVR, 空間線量分布, モンテカルロシミュレーションソフト
本文:PDF(0.8MB)

要旨

Interventional radiology (IVR) 室内の空間線量分布図の表示は専門的な知識を持たない放射線診療従事者に対する放射線防護教育に利用できることが示唆されている。本研究では,モンテカルロシミュレーションソフトparticles and heavy ion transport code system (PHITS) を用いて,想定した術者位置の線量にて規格化した線量比により平板ファントムを用いたIVR 室内の空間線量分布のシミュレーション結果と実測値を比較した。その結果,テーブルサイドステータスコントロールを支持するポールやポールを固定する支持体,テーブルを支える物体等を考慮することによりシミュレーション結果と実測値に有意差は見られなかった(p>0.01)。次に,人体デジタルファントムによる寝台位置や管球角度毎のIVR 室内における空間線量分布図及びジオメトリを算出した。さらに,excel visual basic for applications(Excel VBA) を利用して得られた空間線量分布図及びジオメトリを表示するシステムを構築した。寝台位置や管球角度を変化させた場合の変化前後の画像表示も行えるようにシステム化を行った。これは,放射線について学ぶ方に対する放射線防護教育に寄与すると考えられた。ただし,本研究で得られた空間線量分布図はあくまでシミュレーション結果であり,実際の線量を反映したものではないということに留意する必要がある。


胃がん術後患者の食生活再構築過程

内田静香,藤田あけみ

誌名:保健科学研究 第14巻1号 pp21-31
公開日:2023/12/14
Online ISSN:1884 6165
論文種別:原著
キーワード:胃がん術後,食生活再構築過程,セルフケア,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ
本文:PDF(0.8MB)

要旨

本研究の目的は,胃がん術後患者の食生活の再構築過程を明らかにし,再構築を促進するための看護援助について示唆を得ることである。胃がんの根治術を受け1 年以上経過した,術後の食生活に困難を抱えていない患者を対象とした。半構成的面接調査と診療録調査を実施し,データ分析には修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いた。その結果,対象者はまず≪苦痛のない食生活を模索し,定着させる≫ことに取組んでいた。≪家族や知人,医療者からのサポート≫を受けることで再構築過程を促進させながら,≪再構築した食生活の受容≫をすることで,食生活の再構築が完了していた。また,≪社会活動への影響と対処≫を考え,課題を解決しながら社会復帰していた。看護師には再構築過程にある患者を支え,その過程を促進する援助が求められていた。継続的な介入のため,外来看護師が積極的に患者に関わる態度と提供できる環境の整備が必要である。

報告

妊婦の視点から見た健康診査における助産師の課題(第2 報)-母親意識の変化に焦点を当てて-

鎌田璃沙,早狩瑶子,髙梨一彦,三崎直子

誌名:保健科学研究 第14巻1号 pp33-40
公開日:2023/12/14
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:妊婦健康診査,妊婦,助産師,母親意識,対児感情
本文:PDF(0.8MB)

要旨

本研究は妊婦健診後の妊婦の気持ちや考え,母親意識の変化に着目し助産師の課題を探ることを目的に行った。妊娠初期,妊娠後期の妊婦計12 名を対象に1 人あたり2 回,妊婦健診終了後に個別面接調査と質問紙調査を行った。調査内容は属性,妊婦健診後の気持ちと日頃考えていること,母親意識の変化として母親準備得点,対児感情尺度からも回答を得て母親意識は育まれているか,その要因は何かを評価した。その結果,妊婦の母親準備得点から見た母親意識は全体的に育まれていたと捉えることができた。その要因としては,妊娠初期から超音波断層検査で胎児の姿や動きを見たことの安心や,可愛さ,嬉しさがあった。一方では妊娠生活への適応の工夫や実践と共に,出産・育児準備等,将来の心配につながっていたと推察された。したがって,助産師は妊娠初期から,健康診査を通した気持ちや日頃考えていることを含み妊婦と対話や保健指導ができる環境を整えることが求められると考えられる。


キャリアの断念を経験した助産師の職業的アイデンティティの維持とその要因

早狩瑶子,鎌田璃沙,小山さやの,高間木静香,三崎直子,髙梨一彦

誌名:保健科学研究 第14巻1号 pp41-48
公開日:2023/12/14
Online ISSN:1884 6165
論文種別:報告
キーワード:助産師,キャリア,職業的アイデンティティ,分娩介助,産婦ケア
本文:PDF(0.6MB)

要旨

本研究では,ベテランの助産師として就業する女性が,助産師としてのキャリアを断念する経験を経て助産師としての職業的アイデンティティを維持できたのか,維持の要因には分娩介助や産婦ケアが含まれていたのかを明らかにした。半構造化個別面接調査を行い,助産師としてのキャリア,職業的アイデンティティに関して語った言葉から,複数の研究者で分析・評価した。対象者は4 名で50~60 歳台,出産施設勤務から助産師としてのキャリアを開始した。いずれの対象者もキャリア開始の頃に助産師としての職業的アイデンティティがあったと推察され,それは分娩介助や産婦ケアを中心とした助産師業務に関わることによるものであった。その職業的アイデンティティが根底にあることで,キャリアの断念後の活動の再開や現職の継続に繋がり,助産師としての役割やスキルを幅広く捉える経験をしていた。そのため,分娩介助や産婦ケアは助産師としての職業的アイデンティティの要因であり,助産師としての活動に関わり続けることで職業的アイデンティティが現在まで維持されていた。